パティスリー モンタージュ(北海道)/オーナーシェフ
上村 卓也さん

東京の人気店から念願の故郷・根室で開業。

情に厚く、チョコレート愛に熱いヒーロー

 

「いつか海をのぞむ丘の上でお菓子屋をやる」と心に決めて東京に向かい、24年後の2015年に夢を実現しに地元に戻って、根室初のフランス菓子店「パティスリー モンタージュ」をオープンした上村卓也さん。努力の末、勝ち取ったコンテストの優勝、パリ修業中の奮闘、パティシエとして使命を感じたお客様との出会い――上村さんのパティシエ人生は人との出会いに彩られています。情に厚い上村さんならではのエピソードに思わず胸が熱くなります。

 

■パティシエの第一歩は「紅茶パウンド」と「魔女の宅急便」。根室、東京、フランス、そして根室に戻るまで

 子供の頃、チョコレートが好き好きでたまらなかったんです。食べるだけでは飽き足らず、小学生のときにはチョコレート工場の童話を書いたほどです。最初にお菓子を作ったのは、姉が持っていたお菓子本の中でみつけたパウンドケーキでした。別立ての紅茶パウンドだったのですが、メレンゲづくりが面白くてすっかりはまり、卵黄ばかり残って母にひどく叱られましたね。パティシエの夢が具体的になったのは、ある映画がきっかけです。ちょっと恥ずかしいのですが、アニメの「魔女の宅急便」でした。主人公が働く海の見える丘のパン屋にすっかり心を掴まれ、あんな店を持ち、パンだけでなく、ケーキもいっぱいにできたらいいなと思ったのです。それが高校生のときでした。

 高校卒業後は憧れの世界を目指し、東京の製菓学校に入り、卒業後は東京のホテル、フォーシーズンズに就職しました。パウンドケーキを任され、中学生のときに作った紅茶パウンドをここでブラッシュアップされる形となりました。試作品をいくつも作ったので、あるときホテル内の花屋さんで働く女の子にあげたことがあります。まあ、それが妻なんですが。(笑) 結局、結婚式の引出物も紅茶パウンドだったし、もちろん店にも置いています。紅茶パウンドは、私のパティシエとしての原点かもしれません。

 吉祥寺の「エスプリ・ドゥ・パリ」に移り、12年間お世話になった後にフランスに渡りました。帰国後は東京の人気店での商品開発、銀座「風と土」のシェフを経て、根室に戻ってきました。

 

■カレボーチョコレートとの出会いとウィーバウ氏の教え

 「エスプリ・ドゥ・パリ」に勤めていたとき、カレボーのチョコレートを知りました。とてもおいしくて、恩師が「お菓子に使うのは、やはりそのまま食べておいしいチョコレートじゃなきゃ!」と言っていたのを思い出しました。店でバレンタインのチョコレートを担当させてもらっていたこともあり、26歳のときに師匠の勧めで、ベルギーのカレボー本社で講習会に参加させていただきました。そこでジャン=ピエール・ウィーバウさんの講義を受け、チョコレートにまつわるもやもやが解決しました。チョコレートの結晶は固まるだけでなく、引っ張り合うもので、結晶の結合がうまくいくようにテンパリングすることが大切で、さらにはテンパリングをとったら終わりではなく、そこから温度、そして結晶の状態も意識しなければいけないことをウィーバウさんから学びました。あれから20年、チョコレートを作り続けて、今はマリーズを持ち上げるだけで、テンパリングの状態がわかるようになりました。チョコレートという素材に理解を深めると、作りたい菓子のイメージをそのまま形にできるようになります。たとえばムースを作るとき、チョコレートに合わせる生クリームの泡立て具合で仕上がりは変化します。私はゆるい5分立てで合わせ、チョコレートの結晶化にまかせてムースを固める方法をとっています。チョコレートについて話をしていると、熱が入ってきます。やっぱりチョコレートが好きなんだな!

 

■2015年に根室に自店をオープン。オープン初日は450人が列をなし大盛況

この世界に入ってから「いつかは根室に帰る」と思い続けていましたが、帰国後に勤めた銀座の店は1日でも相当数の売上のある人気店。正直、「人の少ない根室で大丈夫なのか?」と不安になりました。そんなとき、長崎でパティスリーをやっている方に「長崎は人口1万人。それでもやってこれているのだから、2万人いる根室なら絶対できる」と背中を押されました。

根室に帰ると、同じく地元で一級建築士としてがんばっていた高校時代の同級生に店を設計してもらい、2015年11月、実家に近い松本町に「パティスリー モンタージュ」をオープンしました。フランス菓子店は「モンタージュ」が初めてです。地元の方々もテレビなどで「フランス菓子」という言葉は聞いたことがあっても、いったいどういうものなのかはピンと来ていなかったと思います。それでも物珍しさからか、告知もしていないのにオープンの日には450人もお客様がいらして、業者さんや東京から手伝いに来てくれたパティシエ仲間が大活躍でした。

こちらで特徴的なのは、家族や親せきのぶんまで10個単位で買っていかれる方が多いこと。そして漁師さんをはじめ、肉体労働の方が多く、みんな甘いもの好きなんです。こうした方たちが仕事に出られない大雪の日にこそ店が混んだりします。商圏は40㎞くらい。札幌や帯広からわざわざ来てくれるお客様もいます。海で昆布づくりをするおばちゃんたちが、ゴム長のままでやってきてくれたりすると、地元に根付いている気がして、嬉しいですね。

 

■嬉しいときも悲しいときもケーキが力になる。だから絶対手は抜けない

 日々、仕事に追われていますが、心に決めていることが2つあります。ひとつが「チョコレートは一滴残らず使い切る」です。チョコレートは少なくなるほど調整が難しくなりますが、長年チョコレートを扱ってきた経験を活かし、湯せん、ドライヤー、オーブンで温度調整し、湿度も微調整して、最後まで無駄なく使うようにしています。。

 もうひとつは「絶対にベストのものしか出さない」ということです。これは東京にいたときに、あることをきっかけに自分に課しています。デパートの催事をやっていたときのことです。お母さんの誕生日ケーキを買いたいと、閉店間近にOLさんがやってきました。なかなか選べずにとても迷っていらっしゃったので声をかけると、実はお母さまがご病気で、「誕生日を祝うのは最後なんです」と涙をためて言うんです。それを聞いてから、出来映えに納得できないものは店にはぜったいに出さないことにしました。自分たちにとってのケーキは毎日の仕事ですが、ひとりひとりのお客様がケーキを買いにいらっしゃるにはそれぞれの目的があります。ケーキを囲むのは楽しいときだけではない、悲しいときにだって小さな喜びとなるのがケーキだと気づきました。だからいつでも人を感動させるケーキを作るのがパティシエの務めなのです。

 

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店舗情報

パティスリー モンタージュ

北海道根室市松本町4丁目-1-1